「整体院ピーク銀座|人間の身体を科学から考える研究シリーズ」
【整体師が身体を科学する①】
◆量子力学と整体はつながるのか?
細胞・神経・筋肉から考える身体の仕組み
「人間の身体をどんどん小さく見ていったら、最後は何にたどり着くのだろう?」
長年、整体師として人の身体に触れていると、ときどきそんなことを考えます。
私たちの身体には骨があり、筋肉があり、神経があります。
筋肉をさらに細かく見れば筋線維があり、その先には細胞があります。
細胞はタンパク質や脂質、DNAなどさまざまな分子からできています。
分子をさらに細かくすると原子があり、その世界を理解するために必要になってくるのが「量子力学」です。
では反対に、
量子力学 → 原子・分子 → 細胞 → 神経・筋肉 → 人間の身体
と積み上げていったら、私たち整体師が身体に触れたときに起きている現象まで説明できるのでしょうか?
今回は「整体師が身体を科学する」シリーズの第1回として、この少し壮大な疑問について考えてみたいと思います。

そもそも「量子力学」とは何だろう?
量子力学と聞くと、
「ものすごく難しそう」
「自分の身体とは関係なさそう」
と思われる方が多いのではないでしょうか。
量子力学とは、とても簡単にいえば、原子や電子など非常に小さな世界で起きる現象を説明する物理学です。
私たちが普段目にしているボールや自動車などの動きは、主に古典力学で説明できます。
ところが原子や電子ほど小さな世界に入っていくと、日常生活の感覚だけでは理解しにくい現象が現れます。
そのミクロの世界を記述しているのが量子力学です。
ここで重要なのは、量子力学が「不思議な世界の話」だけではないということです。
なぜなら、私たち人間の身体も原子や分子からできているからです。
人間の身体を小さくしていくと「量子の世界」にたどり着く
身体を階層に分けて考えてみましょう。
人間の身体
↓
骨・筋肉・神経・臓器
↓
組織
↓
細胞
↓
タンパク質・DNA・脂質などの分子
↓
原子
↓
電子などを扱う量子の世界
こうして見ると、量子力学と人体は決して無関係ではありません。
私たちの身体を作っている物質も、最も基本的な階層では量子力学の法則に従っています。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。
「身体が量子力学に従っている」ことと、「整体の効果を量子力学で説明できる」ことは同じではありません。
ここは非常に重要なポイントです。
「量子力学=整体」ではない
インターネットを調べると、「量子」という言葉と健康や身体を結びつけたさまざまな説明を目にします。
しかし私は、ここを慎重に考える必要があると思っています。
原子や分子の世界を量子力学で説明できるからといって、
「整体で身体に触れる」
↓
「量子が変化する」
↓
「身体が整う」
と単純につなげることはできません。
現在の科学では、その間に非常に多くの階層が存在します。
量子力学の上に化学があり、分子生物学があり、細胞生物学があり、神経科学や生理学があり、その上に私たちが普段見ている「人間の身体」があります。
つまり、
量子 → 分子 → 細胞 → 組織 → 神経・筋肉 → 身体
という階段を一段ずつ上がって考える必要があるのです。
では、整体と科学が実際に接点を持つのは、どのあたりなのでしょうか?
整体との接点として興味深い「細胞の世界」
ここで非常に興味深い研究分野があります。
それが、
メカノトランスダクション(mechanotransduction)
です。
難しい言葉ですが、考え方はそれほど難しくありません。
私たちの身体にある細胞は、周囲から加わる「力」と無関係に存在しているわけではありません。
引っ張られる。
圧迫される。
伸ばされる。
組織が動く。
こうした機械的な刺激を細胞が感知し、生化学的・電気的な信号へ変換する仕組みが研究されています。
つまり、
「物理的な力」が「生物学的な情報」へ変換される
わけです。
私はここに、整体を科学的に考えるための重要なヒントがあるのではないかと思っています。
「触れる」という行為を科学的に考えてみる
整体師が身体に触れる。
一見すると非常に単純な行為です。大まかに考えれば、
身体に触れる・動かす
↓
組織に物理的刺激が加わる
↓
感覚受容器などが刺激を感知する
↓
神経へ情報が伝わる
↓
脊髄・脳などで情報が処理される
↓
感覚や運動など身体の反応につながる
という流れがあります。
こうして考えると、「身体に触れる」という行為は、単純に筋肉を外から押しているだけではないことが分かります。
しかし身体側から考えてみると、実際には複雑です。
皮膚や筋肉、腱、関節などには、機械的な刺激や身体の位置・動きなどを感知する仕組みがあります。
そこで受け取られた情報は末梢神経を通って中枢神経系へ伝えられます。
そして神経系は、その情報を処理しながら身体の状態を調節しています。
強い刺激ほど身体が反応するとは限らない
私は長年、人の身体を施術してきました。
その経験の中で興味深いと感じてきたことの一つが、
「必ずしも強い力を加えればよいわけではない」
ということです。
強く揉む。
強く押す。
大きな力で身体を動かす。
こうした方法だけが身体への刺激ではありません。
比較的小さな刺激でも、身体がそれを感知すれば神経系には情報として伝わります。
もちろん、ここから「弱い刺激なら必ず身体が良くなる」という結論を出すことはできません。
しかし、
「身体への刺激の大きさ」と「身体がその刺激をどう受け取るか」は、必ずしも同じ問題ではない
という視点は、整体を考えるうえで非常に重要だと思っています。
では、整体は量子力学で説明できるのか?
ここまで来て、最初の疑問に戻ります。
「整体は量子力学で説明できるのでしょうか?」
現時点での私の答えは、
「整体を量子力学によって直接説明できるとは言えない」
です。
これは明確にしておきたいと思います。
しかし同時に、人間の身体を構成する物質の根底には量子力学があります。
そこから、
量子力学
↓
原子・分子
↓
タンパク質などの生体分子
↓
細胞
↓
組織
↓
神経・筋肉
↓
骨格・身体運動
という階層が積み上がり、私たちの身体が存在しています。
そして整体との直接的な接点を探すなら、量子力学そのものよりも、
「外から加わった物理的な刺激を、細胞や神経がどのように受け取り、身体の反応へ変換しているのか?」
という部分の方が、現在の科学から考えやすいテーマではないでしょうか。
人間の身体は、まだ分からないことだらけ。
医学や科学は大きく進歩しました。
それでも、人間の身体についてすべてが解明されたわけではありません。
原子を理解すれば細胞のすべてが分かるわけではありません。
細胞を理解すれば筋肉のすべてが分かるわけでもありません。
筋肉や神経を理解すれば、人間の身体のすべてが分かるわけでもありません。
そして私自身、長年身体に触れてきたからこそ、
「なぜ身体はこの刺激に反応したのだろう?」
と考えさせられることがあります。
経験だけで結論を出すのではなく、科学で分かっていることと、まだ分かっていないことを分けながら考えていく。
それがこれからの整体には必要なのではないかと思っています。
「整体師が身体を科学する」を始めます
今回の記事では、
量子力学 → 原子・分子 → 細胞 → 神経・筋肉 → 人間の身体
という非常に大きな流れを考えてみました。
しかし、これは入口にすぎません。
次回は量子の世界から一気に私たちの身体へ近づいて、
「なぜ人間の身体は『触れる』という刺激に反応するのか?」
について、皮膚・感覚受容器・神経という視点から掘り下げてみたいと思います。
身体はなぜ痛みを感じるのか。
なぜ筋肉は硬くなるのか。
姿勢はなぜ変化するのか。
重力は身体にどのような影響を与えているのか。
そして、寝ている間の首や背骨には何が起きているのか。
整体師として人の身体に触れてきた経験と、現在分かっている科学を一つずつ照らし合わせながら考えていきます。
「人間の身体とは、いったい何なのか?」
そんな素朴な疑問を、このシリーズを通じて皆さんと一緒に考えていければと思います。
整体院ピーク銀座
院長 阿部淳一
参考文献