「整体院ピーク銀座|人間の身体を科学から考える研究シリーズ」
【整体師が身体を科学する④】
なぜ姿勢は崩れるのか? 猫背・ストレートネックを重力と神経から科学する
1.「姿勢が悪いから痛い」は本当なのか?
「猫背だから肩がこる」
「頭が前に出ているから首が痛い」
「背筋を伸ばして、良い姿勢を保ちましょう」と言われることが多いですが、
では、そもそも「良い姿勢」とは、どのような姿勢なのでしょうか?
背筋を真っすぐ伸ばしている状態でしょうか?
耳・肩・骨盤が一直線に並んでいる姿勢でしょうか?
それとも、長時間保っても疲れない姿勢でしょうか?
姿勢は「骨の並び」なのか、それとも身体が重力の中で選んでいる一つの戦略なのか?
2.人間は、常に重力の中で姿勢をつくっている
人間が立っているだけでも、身体には重力が働いています。
頭、胸郭、骨盤、腕、脚など、それぞれに重さがあり、その位置によって身体に加わる力の方向が変わります。
身体が倒れずに立つためには、
という働きが必要です。
姿勢制御には「重力に抗して身体を支えること」と、「視覚や動作の基準となる身体各部の位置を保つこと」という役割があります。
伝えたいポイント
「立っている=静止している」ではありません。
実際には身体はわずかに揺れ、その揺れを絶えず調整しています。
3.姿勢は、骨格だけでは維持できない
骨を積み木のように並べただけでは、人間は立ち続けられません。
姿勢の維持には、
が関係しています。
ここで第3回の「筋緊張」につなげます。
頭が前へ移動すれば、首・肩・背中の筋活動や、胸郭・骨盤との力学的関係も変化します。
しかし重要なのは、
頭が前に出たから、一つの筋肉だけが悪くなった
という単純な話ではないことです。
身体全体が倒れないよう、複数の部位でバランスを取り直している可能性があります。
4.脳はどのように「自分の姿勢」を知るのか?
人間は、目で身体全体を見なくても立つことができます。
それは神経系が、複数の感覚情報を統合しているからです。
主な情報源は次の3つです。
視覚
周囲の景色や水平・垂直を手がかりに、身体の位置を判断します。
前庭感覚
内耳の前庭器官が、頭の傾き・動き・重力との関係を感知します。前庭情報は視覚や身体感覚と統合され、身体の位置や空間での向きを判断する材料になります。
体性感覚・固有感覚
筋紡錘、腱、関節、皮膚、足裏などから、身体各部の位置や動きに関する情報が送られます。
ここで第2回、第3回とのつながりを示します。
身体の位置が変わる
↓
感覚器が変化を感知する
↓
脊髄・脳へ情報が送られる
↓
神経系が筋活動を調節する
↓
姿勢が再び変化する
つまり姿勢も、感覚と運動の情報ループによってつくられています。
5.なぜ姿勢は「崩れる」のか?
姿勢が変化する要因は一つではありません。
身体は、その時の目的を達成しながら、できるだけ倒れない位置を選びます。
したがって、いわゆる「姿勢の崩れ」は、
身体が怠けた結果ではなく、その状況に適応した結果
として現れている場合があります。
ただし「すべての崩れた姿勢が身体に必要」と断定するのも避けます。長時間同じ姿勢が続けば、特定部位への負担や筋活動の偏りが大きくなる可能性があります。
6.猫背は、本当に「悪い姿勢」なのか?
猫背を見ただけで、
「この姿勢が痛みの原因です」
と決めつけることはできません。
猫背でも痛みのない人がいる一方、見た目の姿勢が整っていても首や肩に痛みを感じる人がいます。
猫背そのものを敵にするのではなく、
を見る必要があります。
良い姿勢とは、一つの形を固めることではなく、必要に応じて姿勢を変えられることではないか?
7.頭が前に出ると、首には何が起こるのか?
頭部が前方へ移動すると、頭の重心と首・胸郭との位置関係が変わります。
その結果、首や肩周辺の筋活動、関節に加わる力、呼吸や視線の条件なども変化する可能性があります。
一方、前方頭位と首の痛みの関係は、年代や研究条件によって結果が異なります。成人では関連が示されている一方、若年者では明確な関連が確認されなかった項目もあります。
そのため、
頭が前に出ている=必ず首が痛くなる
とは言い切れません。
ここは科学シリーズらしく、
は同じではない、と明確に説明します。
8.「正しい姿勢」を頑張って保てばよいのか?
背筋を伸ばし、胸を張り続ける姿勢も、長時間固定すれば疲れます。
身体にとって問題になりやすいのは、特定の形だけではなく、
動かずに同じ状態が続くことかもしれません。
大切なのは、
ことではなく、
という考え方です。

9.整体師は、姿勢の何を見ているのか?
私は姿勢を見るとき、背骨が理想的な線に並んでいるかだけを見ているわけではありません。
頭をどこに置いているのか。
胸郭や骨盤はどのように支えているのか。
呼吸によって身体は動いているか。
立った状態から自然に動き出せるか。
一番大事なのは、その方の歴史。
そして身体に刺激を加えたあと、立ち方や動き、本人の感覚がどう変化するのかを見ます。
第3回の主張とも統一します。
姿勢の崩れと対決するのではなく、なぜ身体がその姿勢を選んでいるのかを考える。
これは整体院ピーク銀座の「強く揉まず、骨を鳴らさず、身体の反応を見る」という考え方にも自然につながります。
10.姿勢を科学すると、人間の身体はもっと面白くなる
重力
↓
骨格と関節の位置
↓
筋活動と筋緊張
↓
視覚・前庭感覚・体性感覚
↓
脊髄・脳による姿勢制御
↓
作業・環境・疲労への適応
↓
現在の姿勢がつくられる
結論は、
姿勢は、静止した骨格の形ではありません。
人間が重力の中で立ち、見て、呼吸し、作業し、動くために、神経と筋肉が絶えず調整している状態です。
だからこそ、
「猫背だから悪い」
「真っすぐだから良い」
と形だけで判断するのではなく、
その姿勢から動けるか、その人がどのように適応しているか?
を見ることが大切です。
次回予告
次回のテーマは『整体師が身体を科学する⑤』
なぜ首は負担を受けやすいのか? 頭・頸椎・胸郭から首の構造を科学する
人間の頭は、身体の最上部にあります。
私たちは、その頭を支えながら、視線を動かし、呼吸し、姿勢を変えています。
では、頭が前へ移動したとき、首や背中にはどのような変化が起こるのでしょうか。
次回は、頭・頸椎・胸郭のつながりから、「なぜ首は負担を受けやすいのか」を考えます。
第6回目もお楽しみに。
整体院ピーク銀座
院長 阿部淳一
「整体師が身体を科学する」シリーズ
人間の身体は、まだ分からないことがたくさんあります。
量子・細胞というミクロの世界から、神経、筋肉、姿勢、そして睡眠まで。
科学で分かっていることと整体師として身体に触れてきた経験を照らし合わせながら、人間の身体の不思議を一つずつ掘り下げていきます。
第1回|量子力学と整体はつながるのか?
細胞・神経・筋肉へとつながる身体の仕組みを、ミクロの世界から考えます。
→ 第1回を読む
https://peakginza.com/quantum-mechanics-body-01
第2回|なぜ人間の身体は「触れる」という刺激に反応するのか?
触れる刺激が感覚受容器から神経、脊髄、脳へ伝わる仕組みを科学します。
→ 第2回を読む
https://peakginza.com/touch-nervous-system-02
第3回|なぜ筋肉は硬くなるのか?「こり」を筋肉と神経から科学する
筋肉の硬さや「こり」を、筋活動・筋緊張・感覚・神経系の働きから考えます。
→ 第3回を読む
https://peakginza.com/muscle-stiffness-03
第4回|なぜ姿勢は崩れるのか? 猫背・ストレートネックを重力と神経から科学する
猫背やストレートネックなどの姿勢変化を、重力・骨格・筋肉・感覚・神経による姿勢制御から考えます。
現在お読みいただいている記事です
https://peakginza.com/posture-science-04
次回は「なぜ首は負担を受けやすいのか?」を科学します
人間の頭は、身体の最上部にあります。
私たちは、その頭を支えながら、視線を動かし、呼吸し、姿勢を変えています。
では、頭が前へ移動したとき、首・頸椎・胸郭にはどのような変化が起こるのでしょうか。
次回「整体師が身体を科学する⑤」では、
「なぜ首は負担を受けやすいのか? 頭・頸椎・胸郭から首の構造を科学する」
をテーマに、人間の首が持つ構造と働きを考えます。
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