「整体院ピーク銀座|人間の身体を科学から考える研究シリーズ」
【整体師が身体を科学する③】
◆なぜ筋肉は硬くなるのか?「こり」を筋肉と神経から科学する
「肩がガチガチですね」
「首の筋肉が硬くなっていますね」
整体院では、よく耳にする言葉です。
実際、自分の肩や首を触って、
「ここだけ石のように硬い」
と感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。
では、そもそも「筋肉が硬い」とは、身体の中で何が起きている状態なのでしょうか?
筋肉そのものが硬くなっているのでしょうか。
血流が悪いからでしょうか。
神経が緊張させているのでしょうか。
そして、
筋肉が硬い=痛みの原因
と考えてよいのでしょうか?
「整体師が身体を科学する」第3回では、私たちが何気なく使っている「筋肉が硬い」「こっている」という状態を、筋肉と神経の両方から考えてみたいと思います。
「筋肉が硬い」は、実は一つの現象ではない
まず最初に知っておきたいことがあります。
私たちが触って、
「硬い」
と感じている状態には、複数の要素が関係しています。
筋肉そのものや周囲の結合組織が持つ物理的な性質。
筋肉が収縮することによって生じる張力。
神経系によって調節されている筋緊張。
姿勢や身体の使い方。
さらには痛みや、その人が感じている「こり感」。
これらはすべて同じものではありません。
つまり、
「筋肉が硬い=一つの原因」
ではないのです。
ここを理解することが、身体を科学的に考える第一歩だと思います。
筋肉は「縮む」ことで力を出す
そもそも筋肉は、どのように力を出しているのでしょうか。
骨格筋には多数の筋線維があり、その中にはアクチンとミオシンというタンパク質を中心とした収縮装置があります。
神経から筋肉へ信号が送られると、一連の生理学的な反応を経て筋収縮が起こり、力が生まれます。
腕を曲げる。
歩く。
立ち続ける。
頭を支える。
姿勢を保つ。
私たちが何気なく行っている動作にも、筋肉と神経の連携が必要です。
つまり筋肉は、単独で勝手に働いているわけではありません。
筋肉と神経は常にセットで考える必要があります。
何もしていないように見えても、身体は働いている
椅子に座ってパソコンを見ているとき。
スマートフォンを見ているとき。
立って電車を待っているとき。
一見すると「何もしていない」ように見えます。
しかし身体は、重力の中で姿勢を保っています。
頭が前へ移動すれば、それに対応するために首や背中などの筋活動や身体全体の力学的な条件も変化します。
同じ姿勢を長時間続ければ、
「大きく動いてはいないけれど、身体は姿勢を維持し続けている」
という状態になります。
この視点は、「デスクワークだから筋肉が硬くなる」と単純に考えるより重要です。
人間の身体は、重力、姿勢、視線、身体の位置、周囲の環境などに対応しながら、絶えず筋活動を調節しています。
筋肉の中には「長さを感じるセンサー」がある
ここで、第2回の「触れると身体はなぜ反応するのか?」という話につながります。
筋肉の中には、
筋紡錘(きんぼうすい)
という感覚受容器があります。
筋紡錘は、筋肉の長さや、その長さが変化する情報を神経系へ伝える重要なセンサーです。
筋肉が急に伸ばされると、その変化を感知した情報が感覚神経を通って脊髄へ伝わり、運動ニューロンを介して筋肉の活動に影響します。
有名なのが、膝の下を軽く叩くと脚が伸びる「伸張反射」です。
つまり筋肉は、
脳から命令を受けて動くだけの組織ではありません。
自分自身の状態を感知し、その情報を神経系へ送り続けているのです。
筋肉と神経は「情報のループ」でつながっている
ここまでを単純化すると、
筋肉の状態が変化する
↓
筋紡錘などが情報を感知する
↓
感覚神経から脊髄・脳などへ情報が送られる
↓
神経系で情報が統合・調節される
↓
運動ニューロンを介して筋活動が変化する
↓
再び筋肉の状態が変化する
という循環があります。
身体は、
筋肉 → 神経 → 筋肉
という情報交換を絶えず繰り返しています。
そのため「筋肉が硬い」という現象を、筋肉だけを見て理解しようとすると、身体全体の仕組みを見落としてしまう可能性があります。
「筋緊張」とは何だろう?
ここでもう一つ重要な言葉があります。
筋緊張(muscle tone)です。
筋緊張というと、「筋肉に力が入っている状態」と思われがちですが、実際にはもっと複雑です。
筋の張力や硬さには、筋・結合組織などの受動的な性質と、神経系によって調節される筋活動の両方が関係します。
さらに筋緊張は、姿勢、感覚入力、脊髄の回路、脳からの下行性の調節など、複数の要素の影響を受けます。
最近の研究でも、筋緊張は単純な一つの反射だけではなく、末梢から中枢までを含む複雑な神経調節の中で考える必要があるとされています。
つまり、
「硬いところを揉めば、筋緊張の問題がすべて解決する」
というほど人間の身体は単純ではないのです。
「筋肉が硬い=血流が悪い」だけでは説明できない
「肩こりは血流が悪いから」
という説明を聞いたことがある方は多いでしょう。
確かに筋活動と循環には関係がありますし、持続的な筋活動などによって局所の代謝環境が変化する可能性もあります。
しかし、
「筋肉が硬い → 血流が悪い → 痛くなる」
という一本の道筋だけで、すべての「こり」や痛みを説明することはできません。
痛みには末梢の組織だけでなく、神経系による情報処理など多くの要因が関係します。
だからこそ「血流」という一つの言葉だけで身体を説明しないことが大切だと私は考えています。
「硬い筋肉」と「痛い筋肉」は同じなのか?
ここは非常に興味深いところです。
触って硬い筋肉は、必ず痛いのでしょうか?
逆に、痛みを感じる場所は必ず客観的にも硬くなっているのでしょうか?
実は、そう単純ではありません。
近年、超音波を利用した「せん断波エラストグラフィ」という方法で、筋肉の硬さを客観的に測定する研究が行われています。
ところが筋骨格系の痛みがある人と、症状のない人を比較した研究をまとめると、
痛みがある人の筋肉の方が硬かった研究
だけではなく、
差がなかった研究
さらには、
症状のある人の方が低い硬さを示した研究
まで存在します。
つまり現時点では、
「痛い=その筋肉が物理的に硬い」
とは単純には言えないのです。
これは、整体を考えるうえでも非常に重要なポイントだと思います。
「こり」は身体から脳へ送られる情報でもある
私たちが「肩がこった」と感じるとき、最終的にその感覚を経験しているのは脳です。
筋肉や周囲の組織から送られてくる情報。
姿勢や運動に関する情報。
痛みに関連する感覚入力。
疲労。
過去の経験。
注意。
心理的・社会的な要因。
こうした複数の情報が関係しながら、私たちは自分の身体の状態を認識しています。
したがって、
「こり」という感覚と、筋肉の物理的な硬さは、必ずしも同じものではない
と考える必要があります。
触った側が「硬い」と感じることと、本人が「こっている」と感じることも、完全に同じ現象ではありません。
ストレスで肩に力が入るのは気のせい?
緊張する場面で、
「肩に力が入った」
という経験はないでしょうか。
これは人間の身体を考えるうえで、とても興味深い現象です。
筋肉の状態は、筋肉だけで決まるわけではありません。
神経系は姿勢や運動だけでなく、覚醒状態や周囲の状況などにも対応しています。
そのため、心理的な緊張と身体の緊張を完全に切り離して考えることもできません。
これは、
「肩こりは精神的なものだから気にしなくていい」
という意味ではありません。
むしろ逆です。
人間の身体は、
脳・神経・筋肉・感覚・環境
が互いに影響しながら成り立っているということです。
では、硬い筋肉を強く揉めば柔らかくなるのか?
整体の話に戻りましょう。
触って硬い場所を見つける。
すると、
「ここが硬いから、ここを強く揉んで柔らかくしよう」
と考えたくなります。
しかし、ここまで読んでいただいた方なら、もう少し違った見方ができるのではないでしょうか。
その硬さは、
筋肉・結合組織の物理的な性質なのか。
筋活動が関係しているのか。
姿勢や運動の影響なのか。
神経系の調節が関係しているのか。
痛みに対する防御的な反応などが関係しているのか。
あるいは複数の要素が重なっているのか。
「硬い」という一つの現象だけを見て、原因を一つに決めることはできません。
だから私は、
「硬いところを見つけて、そこを力で柔らかくする」
だけではなく、
「なぜ、この身体はここを硬くしているのだろう?」
と考えることが重要だと思っています。
整体師の仕事は「硬さ」と対決することなのか?
長年施術をしてきて、私は身体の硬さを「敵」のようには考えていません。
身体がある筋肉を活動させているのには、その人なりの身体的条件が存在している可能性があります。
姿勢を維持するためかもしれません。
ある動作に対応しているのかもしれません。
痛みや不安定さに対する反応が関係している場合もあるでしょう。
もちろん、すべての筋肉の硬さに意味があると断定することもできません。
大切なのは、
硬い=悪い
と最初から決めつけないことです。
身体に刺激を加え、その前後で動きや感覚、筋活動などがどう変化するのかを見る。
これは第2回でお話しした、
「刺激を与える → 身体が受け取る → 身体が反応する」
という考え方にもつながっています。
「こり」を科学すると、人間の身体はもっと面白くなる
今回の話をまとめます。
私たちが普段「筋肉が硬い」「肩がこっている」と表現している状態は、一つの原因だけで説明できるものではありません。
筋肉・結合組織の物理的性質
↓
筋活動・筋緊張
↓
筋紡錘などからの感覚情報
↓
脊髄・脳を含む神経系の調節
↓
姿勢・運動・重力・環境
↓
痛みや「こり」という主観的な感覚
これらを分けて考え、さらに相互の関係を見る必要があります。
そして一番大切なのは、
「硬い=悪い」「柔らかい=良い」と単純に決めつけないこと。
人間の身体は、それほど単純ではありません。
だからこそ面白いのです。
次回は「姿勢」を科学します
「姿勢が悪いから肩がこる」
「猫背だから首が痛い」
こうした言葉も、私たちは日常的によく耳にします。
しかし、
そもそも「良い姿勢」とは何なのでしょうか?
人間は地球上にいる限り、常に重力を受けています。
頭、背骨、骨盤、脚。
そして、それらを支える筋肉。
次回「整体師が身体を科学する④」では、
「なぜ姿勢は崩れるのか? 重力・骨格・筋肉から人間の立ち姿を科学する」
をテーマにします。
「姿勢が悪いから直しましょう」という話ではなく、
なぜ人間はその姿勢を選んでいるのか?
というところから考えてみたいと思います。
整体院ピーク銀座
院長 阿部淳一
※本記事は身体の仕組みを科学的な視点から考察することを目的としており、特定の施術による治療効果を示すものではありません。
【参考文献・出典】
Gurfinkel VS, et al.
「Muscle tone: mechanisms and significance」関連レビュー
Frontiers in Neuroscience, 2024.
筋緊張について、筋・結合組織などの受動的要素と神経系による調節、姿勢・重力・感覚入力などとの関係を考察したレビュー。
Purves D, et al.
「Muscle Spindles」Neuroscience, NCBI Bookshelf.
筋紡錘が筋肉の長さやその変化を感知し、感覚神経を通じて脊髄などへ情報を伝える仕組みについて解説した神経科学の基礎資料。
Dieterich AV, et al.
筋骨格系疼痛と筋肉の硬さを、せん断波エラストグラフィで検討した研究のシステマティックレビュー, 2024.
痛みのある人で筋肉の硬さが高い研究だけでなく、差がない研究や低い値を示した研究もあり、「痛い=筋肉が物理的に硬い」と単純には結論づけられないことを示している。
「整体師が身体を科学する」シリーズ
人間の身体は、まだ分からないことがたくさんあります。
量子・細胞というミクロの世界から、神経、筋肉、姿勢、そして睡眠まで。
科学で分かっていることと整体師として身体に触れてきた経験を照らし合わせながら、人間の身体の不思議を一つずつ掘り下げていきます。
第1回|量子力学と整体はつながるのか?
細胞・神経・筋肉へとつながる身体の仕組みを、ミクロの世界から考えます。
→ 第1回を読む
/quantum-mechanics-body-01
第2回|なぜ人間の身体は「触れる」という刺激に反応するのか?
触れる刺激が感覚受容器から神経、脊髄、脳へ伝わる仕組みを科学します。
→ 第2回を読む
/touch-nervous-system-02
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